人手不足なら給料が上がるはずなのに、保育士の待遇にはなぜ差が残るのでしょうか。求人の多さと給与の決まり方を分けると、その背景が見えてきます。
本記事では、厚生労働省の統計とこども家庭庁の資料から、月収の比較、公定価格、処遇改善の読み方を整理します。園を選ぶ際に給与以外に確かめたい条件も紹介します。
情報は2026年10月24日時点のものです。制度・労働条件・統計は変わることがあります。出典は記事末尾にまとめています。
転職・退職の判断は、ご自身の状況に合わせて行ってください。労働条件のトラブルは、労働基準監督署や総合労働相談コーナーで相談できます。記事中の人物・会社・試算は、特記のない限り説明のための例です。
- 給与を比べる際は、賞与を含む月収と所定内給与を区別します。
- 保育園の運営には公定価格が関わり、給料の配分は園によって異なります。
- 処遇改善の予算上の累計率は、個人の昇給率を意味しません。
基礎知識:公定価格
公定価格は、施設の種類・定員・地域・子どもの年齢などをもとに定める費用の基準です。園の運営費の仕組みを理解する出発点になります。
本記事で比較する月収は、毎月の現金給与に年間賞与の月割り分を加えた額です。毎月の給与明細に載る手取りとは異なります。
処遇改善等加算は、職員の賃金改善や技能・経験に応じた待遇改善を支える仕組みです。実際の手当や配分は園によって異なります。
求人の多さと給与水準を分けて見る
こども家庭庁がまとめた全国の有効求人倍率は、2025年7月に保育士が2.77倍、全職種が1.18倍でした。特定の月の全国値であり、地域や時期を変えれば数字も変わります。[s3]
全国の有効求人倍率を比較
有効求人倍率(令和7年7月)
出典:厚生労働省「職業安定業務統計」(こども家庭庁がまとめた資料・令和7年7月)
一方、こども家庭庁が賃金構造基本統計調査から作成した比較では、2025年の月収換算は保育士34.3万円、全産業39.6万円です。役職者を除く男女計の平均で、賞与を含む比較であることに注意が必要です。[s1]
園の収入と公定価格の仕組み
保育所などの運営費は、国が定める公定価格と利用者負担の仕組みに沿って支払われます。地域や子どもの年齢などに応じた単価が土台となり、一般の事業のように自由な値上げで給与原資を増やせる構造とは異なります。[s5]
公定価格と園の運営費の流れ
保育園に入るお金(認可保育所)
処遇改善等加算には、経験に応じた昇給の仕組み、全職員の賃金改善、技能や経験に応じた改善があります。財源が用意されていることと、個人の給与明細が同じ割合で増えることは分けて考える必要があります。[s1]
処遇改善の累計率と実際の給与
こども家庭庁の資料にある累計39%は、各年度の予算上の改善率を足し上げた数字です。資料自身が実際の改善率とは異なると注記しており、すべての保育士の給料が同じ割合で増えたという意味ではありません。[s1]
予算の改善率を読むときの注意
同資料の月収換算は、2012年の26.3万円から2025年の34.3万円へ増えています。政策の適用時期と統計の調査時点にも差があるため、予算・統計・自分の給与の三者を区別して確認しましょう。[s1]
園を選ぶ前に確認したいこと
園のモデル給与や人件費比率などは、経営情報の見える化の取り組みで公表される仕組みになっています。掲載状況や支援制度は園・自治体によって異なるため、求人票と合わせて実際の条件を確認します。[s1]
東京都の調査を紹介したJILPTの記事では、退職意向を持つ人と、実際に辞めた人で理由の順位が異なります。給与だけに絞らず、職員配置、業務量、人間関係、昇給のルールを一緒に確かめることが大切です。[s4]
実践のポイント・まとめ
出典・参考文献
- [s1] こども家庭庁「保育士・幼稚園教諭等の処遇改善」(令和8年3月版) ↗ cfa.go.jp
- [s2] 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(職種別の表は e-Stat) ↗ mhlw.go.jp
- [s3] こども家庭庁「保育士の有効求人倍率の推移」(出典:厚労省 職業安定業務統計) ↗ cfa.go.jp
- [s4] 労働政策研究・研修機構(JILPT)「やりがいを感じる人が多い一方、不満度が高い給与の水準」ビジネス・レーバー・トレンド2026年10月号 ↗ jil.go.jp
- [s5] こども家庭庁「公定価格」 ↗ cfa.go.jp
- [s6] こども家庭庁「令和8年度 公定価格・基準等の見直し事項」 ↗ cfa.go.jp
- [s7] 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」 ↗ mhlw.go.jp
- [s8] 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」 ↗ mhlw.go.jp
- [s9] 労働基準法 第106条 ↗ laws.e-gov.go.jp
※ 月収換算は、きまって支給する現金給与額に年間賞与の12分の1を加えた額です。役職者を除く男女計の比較で、個人の昇給額ではありません。
※ 処遇改善の累計39%は予算上の率の単純合計です。個人の給与改善率とは異なります。