うつ病などで休職するときの労災と傷病手当金:認定条件と相談の進め方

うつ病などで休職するときの労災と傷病手当金:認定条件と相談の進め方

心の不調で休職するとき、生活費の支えには健康保険の傷病手当金と労災保険があります。どちらを使うかは給付の多さで選ぶのではなく、仕事が原因かどうかなどの条件で決まります。[s6][s8]

本記事では、精神障害の労災認定の条件、両制度の給付の違い、記録と相談の進め方を整理します。認定率を自分の確率と取り違えず、治療と休養を優先しながら必要な手続きを確かめるための記事です。

情報は2026年10月29日時点のものです。制度・労働条件・統計は変わることがあります。出典は記事末尾にまとめています。

転職・退職の判断は、ご自身の状況に合わせて行ってください。労働条件のトラブルは、労働基準監督署や総合労働相談コーナーで相談できます。記事中の人物・会社・試算は、特記のない限り説明のための例です。

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この記事のポイント
  • 傷病手当金は業務外、労災保険は仕事が原因の病気などを扱い、金額で自由に選ぶ制度ではありません。
  • 精神障害の労災は発病、業務による強い心理的負荷、業務外の原因の評価という条件で判断されます。
  • 会社の証明を得られなくても請求でき、労働基準監督署へ相談できます。

基礎知識と読む前の前提

労災と認められるかどうかは、職場での出来事と病気との関係を調べて判断されます。つらさだけで自己判断するのではなく、医療機関で症状を相談し、仕事で起きたことも伝えることが出発点になります。[s3][s5]

給付の割合を比べるときは、計算の土台が違う点に注意が必要です。傷病手当金の標準報酬月額と、労災の給付基礎日額は別の金額なので、同じ月給に割合だけを掛けて比較できません。[s6][s8]

認定されるか分からない段階でも、相談を始めることはできます。会社から証明を得られない場合の請求や、労災の請求中に行う傷病手当金の申請についても、公的な案内で確認できます。[s7][s14]

主要キーワード・用語の定義
傷病手当金
業務外の病気やけがで働けず、給与が十分に出ない場合などに健康保険から支給される制度です。[s8]
給付基礎日額
労災給付の算定の土台で、原則として災害前の賃金を暦日数で割った日額です。[s6]
心理的負荷
仕事で起きた出来事の内容や程度を、認定基準に沿って評価するものです。[s3]

休職中の支援は、原因と算定方法から確かめる

傷病手当金は、業務外の病気やけがで働けない場合などに支給されます。協会けんぽでは連続した待期の後の休業を対象に、支給開始前の標準報酬月額の平均を使って日額を計算します。[s8]

日額の基本式は標準報酬月額の平均を30で割った額の3分の2で、支給期間は通算1年6か月です。給与が支払われる場合には支給額との調整があり、加入期間が短い場合などの算定条件も確認する必要があります。[s8][s9]

労災の休業補償給付は休業4日目から給付基礎日額の60%で、休業特別支給金20%を合わせると80%です。業務災害の最初の3日間は労災からの給付ではなく事業主の休業補償の対象で、必要な療養は原則として自己負担なく受ける仕組みです。[s6][s13]

労災を請求中なら、傷病手当金の申請書にもその状況を記載します。後に労災が決まり、支給対象の期間が重なれば傷病手当金の返納や差額の調整があるため、両方をそのまま受け取れるとは考えないでください。[s14]

労災認定で確認される条件

精神障害の認定には、対象の病気を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷があることが必要です。さらに、業務外の心理的負荷や個体側の要因によって発病したとは認められないことが条件になります。[s3][s5]

公式の資料から引用
厚生労働省リーフレット「精神障害の労災認定基準を改正しました」(一部)
  • 1 病気を発病している
  • 2 おおむね6か月の間に強い負荷
  • 3 ほかの原因とは認められない
出典:厚生労働省リーフレット「精神障害の労災認定基準を改正しました」(一部)

業務の負荷は、長時間労働だけでなく、ハラスメントや顧客からの著しい迷惑行為なども含めて評価されます。名称だけで認定が決まるのではなく、内容、程度、反復や継続などの事実を基準に照らします。[s3][s4]

私生活にもストレスがあるという理由だけで、すぐ不認定になるわけではありません。業務外の要因があっても、それで発病したことが医学的に明らかとまではいえない場合の扱いが、認定基準に示されています。[s3]

以前から病気があった場合も、一律に対象外とは限りません。2023年の改正では、強い業務上の心理的負荷で悪化したと医学的に判断された部分を認める考え方が示されましたが、自然な経過を超えた悪化かどうか慎重に判断されます。[s3][s4][s5]

認定率を、自分が認められる確率にしない

厚労省が公表した令和7年度の精神障害の労災請求は4,958件で、支給決定は1,082件でした。認定率28.2%は、同年度の決定3,839件に占める支給決定の割合です。[s1][s2]

年度内の請求と決定は同じ集団ではなく、過年度の請求への決定も含まれます。この割合から個人の認定の見込みを計算することはできないため、数字よりも自分の病状と勤務の事実を整理することが役立ちます。[s1][s2]

手順

残しておく記録の3本柱

STEP 1
勤務の実態

勤怠・残業申請・指示のメール

STEP 2
ハラスメント

日時・場所・言葉のメモ

STEP 3
医療の記録

初診日・症状の経過

勤務の記録、出来事の日時や内容、初診日や症状の経過を、無理のない範囲で整理してください。会社の機密資料を勝手に持ち出したり、事実に合わせず説明を作ったりせず、手元に残せる情報や集め方に迷ったら相談先へ確認します。

会社の証明が得られない場合と、相談の順序

会社が事業主証明を拒否した場合でも、労災保険の請求は可能です。厚労省は、証明が得られない場合には労働基準監督署へ相談するよう案内しています。[s7]

流れ

会社が証明を拒否したとき

会社が 証明を拒否
労基署に 相談
本人が 請求

労基署が調査して支給か不支給かを決めるため、請求できることと認定されることは別です。休業補償給付の請求権は賃金を受けない日ごとに翌日から2年で、決定への審査請求は原則として知った日の翌日から3か月以内です。[s11][s12]

業務上の病気で療養のために休業する期間とその後30日間には、労働基準法の解雇制限があります。ただし打切補償などの例外があり、業務外の病気による休職と同じ扱いではないため、自分の状況を窓口で確かめてください。[s10]

まず受診と休養を優先し、次に出来事と勤務の実態を整理し、労働基準監督署や総合労働相談コーナーへ相談する順で進めるとよいでしょう。生活費が心配な場合は加入する健康保険にも連絡し、労災の請求状況を伝えて手続きを確認してください。[s7][s14]

実践のポイント・まとめ

POINT 1

原因と制度を確認

仕事が原因か分からない場合は、労基署と加入する健康保険へ状況を伝えて相談してください。

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POINT 2

無理なく記録を整理

勤務の実態、職場の出来事、医療の経過を分け、体調に合わせて残してください。

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POINT 3

会社だけで判断しない

事業主証明が得られない場合も、請求の進め方を労働基準監督署へ確認してください。

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出典・参考文献

検証ファクト一覧を表示する(全23項目)
ID 確認した事実・仕様 出典 注意・補足
F1 令和7年度(2025年度)の精神障害の労災請求は4,958件で、前年度より1,178件増え(3,780件→4,958件)。支給決定は1,082件で26件増。2026年7月15日に厚労省が公表 [s1] [s2] 請求件数は年度中の請求で、同じ年度に決定されたとは限らない(s1の注2)。複数業務要因災害は請求を区別できず集計していない
F2 請求件数の推移(令和3〜7年度):2,346・2,683・3,575・3,780・4,958件。支給決定は629・710・883・1,056・1,082件 [s2]
F3 令和7年度の決定件数は3,839件、うち支給決定1,082件。認定率は決定件数に占める割合で28.2%(令和6年度は30.2%) [s2] 請求4,958件のうち28.2%、ではない。個人が認められる確率でもない(決定は前年度以前の請求を含む)
F4 支給決定の出来事別(令和7年度):上司等からのパワーハラスメント222件が最多、顧客や取引先・施設利用者等から著しい迷惑行為127件、セクシュアルハラスメント127件、仕事内容・仕事量の大きな変化113件 [s1]
F5 令和7年度の支給決定を時間外労働時間別(月平均)に見ると「20時間未満」が57件で最多、次いで「40時間以上~60時間未満」が55件 [s1]
F6 業種別の請求は医療・福祉1,288件、製造業720件、卸売業・小売業645件。年齢別の請求は40〜49歳1,344件、50〜59歳1,207件、30〜39歳1,122件の順 [s1]
F7 認定要件は3つ:①対象疾病を発病していること ②発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること ③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと [s3] [s5]
F8 要件③は、業務以外の心理的負荷や個体側要因が確認できない場合、または、認められても、それによって発病したことが医学的に明らかとまでは言えない場合に満たされる [s3] 「私生活にストレスがあれば不認定」ではない
F9 業務による心理的負荷は「強」「中」「弱」の3段階で評価。いずれかの出来事で「強」なら強い心理的負荷。複数の出来事は全体で総合評価 [s3]
F10 長時間労働の例:発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働は、それだけで「強」。発病直前の連続2か月に月おおむね120時間以上、連続3か月に月おおむね100時間以上も「強」の例。1か月80時間以上の時間外労働は出来事(項目12)として評価 [s3]
F11 パワーハラスメントの「中」の例には、人格や人間性を否定する精神的攻撃、必要以上の長時間の叱責、無視等の人間関係からの切り離し、業務上の合理性なく仕事を与えない過小な要求などがある(反復・継続がない場合)。反復・継続して執拗に受けた場合などは「強」 [s3]
F12 2023年9月の改正で、具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)が追加。著しい迷惑行為とは暴行・脅迫・ひどい暴言・著しく不当な要求等 [s4] [s3] 「カスハラなら必ず認定」ではない。内容・程度・反復で評価
F13 2023年9月の改正で、業務外で既に発病していた精神障害の悪化について、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がなくても、「業務による強い心理的負荷」により悪化したと医学的に判断されれば、悪化した部分の業務起因性を認める [s4] [s5] 通達は「強い心理的負荷があっても直ちに悪化の原因と判断しない。自然経過を超えて著しく悪化したか慎重に検討」とも書く。個体側要因として既往は調査される
F14 労災の療養補償給付:必要な療養の給付(労災病院・労災指定医療機関)または必要な療養の費用の支給 [s6]
F15 労災の休業補償給付は、休業4日目から1日につき給付基礎日額の60%相当額。さらに休業特別支給金として給付基礎日額の20%相当額(合計80%)。給付基礎日額は、原則として災害発生日以前3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割った額 [s6] [s13]
F16 休業の最初の3日間(待期)は労災の休業給付が出ない。業務災害の場合、その3日間は事業主が労働基準法に基づいて休業補償を行う義務がある(通勤災害は義務なし) [s13]
F17 療養開始後1年6か月たっても治らず、傷病等級1〜3級に当たる状態が続く場合は、傷病補償年金(給付基礎日額の313〜245日分)に移る [s6] [s13]
F18 傷病手当金(協会けんぽ):業務外の病気やケガの療養で仕事を休み、連続3日間(待期)の後の4日目以降に支給。1日あたり=支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均÷30日×2/3。支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月 [s8] [s9]
F19 傷病手当金の申請書では、労災保険給付を請求中なら「請求中」を選ぶ。労災保険給付の支給が決まったあと期間が重なった場合は、すでに支給した傷病手当金の金額(または一部)を返納する。労災に当たるか分からない場合は労基署に相談 [s14]
F20 労働基準法第19条:使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、打切補償を支払う場合や、天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能となった場合(行政官庁の認定が必要)は除く [s10]
F21 会社が事業主証明を拒否するなどで事業主証明が得られない場合でも、労災保険の請求はできるので、労働基準監督署に相談する [s7] FAQ 1-4 の回答の文。請求すれば必ず認められるわけではない(認められるかは労基署が調べて決める)
F22 請求の時効:療養の費用は支出した日ごとに請求権が発生しその翌日から2年、休業補償給付は賃金を受けない日ごとにその翌日から2年 [s11]
F23 労災の決定に不服があるときは、決定があったことを知った日の翌日から3か月以内に、労働者災害補償保険審査官に審査請求できる [s12]

※ 一般的な制度の説明です。個別の診断、労災認定や支給の可否は医療機関・労基署・健康保険の窓口で確認してください。

※ 認定率は決定件数に占める支給決定の割合で、個人の認定確率ではありません。給付の割合は計算の土台が異なります。